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葉アメリカのナース・ミドワイフ :第2回 臨床の場面 外来編

1981年にボストンで修士号を取ったときに、試験を受けてRegistered Nurse(アメリカ登録看護師、日本の正看護師の資格にあたります)の資格も取ったのですが、いろいろな事情から、その時はミドワイフの資格は取りませんでした。その後、シアトルで博士課程在学中に産科ナースとしてアルバイトをしている時に、やはり助産の資格を取りたいと思うようになりました。博士号を取得した後で、オレゴン・ヘルス・サイエンス大学の修士号取得後助産師養成課程(post master's certificate program)に入学し、一年間勉強しなおしてナース・ミドワイフの資格を取りました。アメリカではナース・ミドワイフはナース・プラクティショナーの一形態として分類され、業務範囲も助産だけに限られません。

オレゴンの大学院では、お産を取り上げるときの科学的、人道的なアプローチを学んだのはもちろんですが、それと同時にたいへん勉強になったのは、婦人科を中心とした外来診断治療の心と知識と技術でした。日本で考えていた助産師という職業の枠から抜けて、新しい形のプラクテショナーとしての自分の信条ができました。現在、いろいろな患者さんがいろいろな理由でなでしこクリニックを訪れます。検診の際にはその人のお話しを聞き、健康上の悩みを理解し、必要な検査や診察を行い、薬を処方し、健康促進のための生活上の注意事項を一緒に考えます。その過程で私が必ず心がけるのは、その人が自分でものを考えられるようになることを援助することです。

今回は、外来に訪れた患者さんの逸話(プライバシーの保護のため、状況や名前を変えてあります)を通して、外来でのナース・ミドワイフの仕事の仕方を紹介したいと思います。

子宮ガンの検診(パップスメア)

アメリカでは、セックスをするようになったら婦人科の検診を定期的に受けることが常識になっています。婦人科定期健診には、パップスメアという子宮ガンの検査が必ず含まれています。日本でも最近は若い人の子宮ガンが増えたことが問題になっていますが、これには、タバコとHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)という性病のウイルスが関係しています。セックスをするとHPVのウイルスが性器につき、自覚症状がまったくないまま、子宮口の細胞のガン化を促進することがあります。また、タバコを吸っているとガン化が起こりやすくなることがわかっています。

綾香さんは28才、独身女性です。アイオワ州の大学からシアトルの大学に転校して最近引っ越してきました。実は、去年アイオア州で子宮ガンの検査を受けたのですが、その結果、早期異常があるから精密検査を受けるように、と言われました。ところが事情も良くわからず、ちょっと怖くて行くのをためらっているうちに1年が過ぎてしまいました。今回、なでしこクリニックのことを新聞広告で見て、勇気を出して再検査にやってきました。

子宮ガンの検査結果は、日本ではクラスIからIIIといった分類をしますが、アメリカではもう少しくわしい分類方法を使います。綾香さんのパップスメアの結果はLSILという分類でした。これは、初期の細胞変化で、そのまま自然に治る可能性もあるけれど、放っておくとガンになる可能性も少しある、という結果です。パップスメアは子宮口の表面の細胞を少し掻き取ってきて検査する方法なので確定診断ではなく、もっとひどい病変がある部位を見逃している可能性もあります。そのため、パップスメアで異常が見つかった場合は、子宮口を特殊な膣拡大鏡で拡大して見て、危ないと思われる箇所をちょっと切り取ってきて検査する、コルポスコピーという精密検査をすることが必要になります。アメリカ組織検査学会の勧告(注1)に寄ると、LSILがあって、ガン化を起こしやすいタイプのHPVが組織内に存在することがわかっている場合には、コルポスコピーをすることが妥当である、とされています。

私は、1時間ほどかけて、子宮ガンがどんな理由でどのように発生するのか、どんな検査があるのか、検査結果の判定はどのようにおこなわれるのか、予後はどうなるのか、検査治療のほかに、どのような生活上の注意をしたら良いのかを充分説明しました。その上でもう一度綾香さんのパップスメアを繰り返し、同時にHPVのウイルス検査とウイルスのタイプ判定を行いました。その結果、相変わらずLSILのタイプの細胞が見つかり、ガン化を起こしやすいタイプのHPVが細胞内に存在していることがわかりました。そこで同僚のナースプラクティショナーに頼んで綾香さんのコルポスコピーの検査をしてもらいました。その結果、やはりLSILという細胞変化があることがわかりました。特に手術で取るほどの変化ではなかったので、万が一のガン化を見逃すことのないよう、綾香さんは私のところで3ヶ月ごとにパップスメアの検査を受けています。

こうした検査や治療を受ける過程で、いろいろな技術や知識を持ち、健康維持のパートナーとして、教育と話し合いによって方針を決めながら患者の身になって治療をすすめるナースプラクティショナーやナース・ミドワイフの役割に魅力を感じ、綾香さんは将来ナースプラクティショナーになるための勉強を始めています。

決断

婦人科検診で毎年訪れるたびにゆっくりその人の生活についてのお話を聞きしますし、また、妊婦さんの場合は、検診で毎月一回、身体的なことばかりでなく、自分の気持ち、家族関係、などについても毎回お話を聞かせていただいていると、次第に信頼関係が深まってきます。そのうちに、最初は話してくれなかったようなことまで私に相談してくれるようになってきます。「実はストレスが溜まると、人に隠れて大食して全部吐いてしまうんです」、「今度はいつボーイフレンドに殴られるかと思って、毎日ひやひやして生活しているんです」、「彼には内緒なんですが、他の人と関係ができて性病になったかもしれないんです」、「妊娠しないといって彼の両親につめたくされるのですが、実は彼が性行為をしないのです」など、人に相談できなかった悩み事が打ち明けられてきます。そうした場合には、適切な医療診断や処置をすることはもちろん、抜け道の無い考え方の中にはまり込んで抜けられない人には他の視点もあるということを示し、危険な状態の場合には、カウンセラー、医師、警察などと連携を取って援助をします。

ただ、それ以上に大切なのは、その人の現在の気持ちを本当に理解してあげることです。充分に話しを聞き、どうしてそういう状況になっているのかが私に納得できたら、その上で、「あなたは一生懸命生きている、自分が現在できるかぎりの努力をしている」ということを認めてあげると、それだけで悩みを話してくれた人たちは、気が楽になるようです。悲しい、苦しい時に、それを受け止めてくれる人がいるだけで、悲しみや苦しみの傷は次第に癒えてくるものです。これは、お産のつらさの中で、そばで見守ってあげて「大丈夫よ」と言ってあげるだけで、「ああ、もう少し頑張れる」という勇気がわくのと同じことだと思います。

葉子さんはこちらで白人のボーイフレンドと一緒に住んでいて妊娠しました。ところが、妊娠がわかってから、実は彼は別の人と結婚していて、子供もいることがわかりました。彼は、もうすぐ今の妻と離婚してあなたと一緒になる、と約束しました。葉子さんは彼と一緒になって子供を産んで育てるという決意を一旦はしたのですが、彼の両親も葉子さんの両親も、勘当する、と大変な怒りようです。彼女自身は生理不順がひどく、妊娠できないかも知れないと過去に日本で言われたことがあり、これが最初で最後の妊娠かもしれないと思っていました。なでしこで彼に付き添われながら妊婦検診を何回か受けて、赤ちゃんの無事を確かめ、身体の健康を確かめ、妊娠初期にどんなことに気をつけた方が良いかを一生懸命聞きながらも、検診の最後には、「いつまでだったら、中絶できますか?」と聞かざるを得ない葉子さんでした。2ヶ月めには、ボーイフレンドと、葉子さんを連れ戻しに日本から来たお母さんと一緒に妊婦検診に訪れました。付き添いのふたりを待合室に残し、診察室で「私、どうしたら良いの?」と泣きじゃくる葉子さんを抱きしめながら、「産んでも良いよ、どうしても育てられなかったら養子にもらって大事に育ててくれる人がいるから。堕ろしても良いよ、一緒についていってあげるから(注2)。お母さんのために生きているのではなく、彼のために生きているのでも無く、あなた自身の人生なんだから、誰を不幸にしてもあなた自身が納得できるような行き方をしなきゃいけないのよ。」と繰り返しました。

彼女は産みたかったし、話し合いを繰り返すうちに、お母さんも折れて、「葉子の気の済むようにしたら良い、私が援助してあげるから」と言うようになったのですが、葉子さんは、結局彼が信じられず、ひとりで生きていくすべも無く、中絶を選びました。最後にお母さんとふたりでご挨拶に見えた葉子さんは、悲しくやつれていましたが、自分で自分の生きる道を選んだという自信と強さを見せていました。

救急事態

さよりさんは40歳、これまでひとりでアメリカの社会で仕事をして頑張ってきた人です。もう何年もなでしこに婦人科定期健診を受けに来ていらしていて、そのたびに、早く亡くなったお母様の話、職場の苦労話など通じて親しくなっていきました。ある日、さよりさんは膀胱炎がひどくなり、とても苦しい、といって緊急に診察に訪れました。何日か前に膀胱炎で近所のアメリカ人の家庭医に診てもらって薬をもらったのですが、薬を飲んでも良くならず、家庭医に電話しても、薬を続けなさいと言われるだけで、とても苦しいから診てください、ということでした。診察してみると膀胱炎とは違います。下腹部の痛み、腹膜刺激症状、発熱があります。内診の結果、婦人科系の痛みではありません。急性盲腸炎のようなので、すぐに救急室に電話をし、こういう患者を送ります、という連絡をします。さよりさんの後に予約の入っていた妊婦検診の患者さんに予約の変更をお願いし、私も一緒に救急室にいきました。

私は自分の患者さんを救急室に送るときには、通訳と状況説明を兼ねて、必ず付き添っていきます。救急室では、救急専門医が一応の検査をして診断をし、その結果によって入院が必要ならば、適切な医師(外科系の疾患なら外科医、婦人科系なら産婦人科医、泌尿器系なら泌尿器科の医師)に連絡を取って入院させます。救急室で血液検査と尿検査の結果を待ち、超音波検査をし、盲腸炎ですでに腹膜炎も起こしているという診断がついたため、すぐに外科医に担当が決まり、入院して手術になりました。3日後に良くなって退院したさよりさんは、あの時なでしこで診てもらって、本当に良かったと感謝してくれました。さよりさんは、病気になって初めて、アメリカで短期ビザの更新を続けながらのひとり暮らしがどんなに不安定なものかを自覚して、日本に帰ってご家族のそばに就職することを決めました。

避妊法の処方

麻衣さんは32歳、最近二人目の赤ちゃんをなでしこで出産し、産後6週間目の検診で避妊法を話し合った結果、IUDを使うことになりました。3人目の子供も欲しいけれど、少なくとも2年は間をあけたい、コンドームはゴムアレルギーがあるので使えない、ピルは飲み忘れが多いので自分には向かないという理由でIUDを選びました。また、麻衣さんはもともと生理が重い方なので、銅をつかったParagard®という製品ではなく、ホルモンを含ませたMirenaR®というIUDを使うことにしました。ParagardR®は一度挿入すると10年間有効ですが、生理が重くなる副作用のある場合があるのです。一方、MirenaR®には、プロジェステロンというホルモンが含ませてあって、子宮内膜を薄くするので、生理が軽くなります。Mirena®は5年間有効で、卵管結縛と同じぐらい高い避妊効果があります。

私は、産後にIUDを使う場合は、子宮の復古がほぼ完了した8週目ぐらいに行います。性病の可能性が少しでもあれば、挿入の一週間前までに性病の検査をしておき、結果が陰性なのを確認してから、IUDの挿入を行います。当日は、予約の30分ほど前に家で痛み止めのイブプロフェンを2粒飲んで来てもらいます。まず、あらかじめ渡した資料をもう一度確認し、この製品を使う意味について復習し、作用機序、効果、副作用、もし、異常が起こった場合の対処法などについて話し合ったうえで、インフォームド・コンセントにサインしてもらいます。

診察の準備をし、まず、普通に内診をして子宮の向きや大きさを診てIUDの挿入に適した向き、大きさかどうかを確認します。膣鏡を挿入し、局所麻酔のゼリーを頸管の周りと子宮口に塗っておきます。麻酔剤が効いたころ、今度は消毒剤でそのあたりをきれいに拭きます。細いプラスチックの道具を使って、そっと子宮の深さを測ります。ちょっと子宮の口が堅くしまっている場合には、テナキュラムという針のような先のついた鉗子を使って子宮口を安定させてから行います。IUDを挿入器にはめこんで、さっき測った深さの1cmほど手前まで入れ、挿入器からはずしてからIUDを完全に奥まで送り込み、挿入器を取り除きます。IUDについている糸を子宮口から3cmぐらいのところで切って処置は終わりです。全部で10分もかかりません。麻衣さんは、1年たって母乳が終わっても生理がとても軽く、まったく意識せずにすむ、この避妊法が気に入っています。

幅広い外来業務と健康管理パートナーとしての考え方

アメリカのナース・ミドワイフは、産科だけでなく婦人科やその他の簡単なプライマリーケアを行えるような教育を受けていて、こうした業務を行った場合、健康保険の支払いも受けられます。私の住むワシントン州では、治療に必要な薬の処方もできます。昨年からは麻薬の処方もできるようになりました。基本的には日本の婦人科医の外来と似たような業務を行うことができます。同じような内容の仕事をするのですが、ナース・ミドワイフやナース・プラクティショナーが医師と少し違うのは、看護が原点なので、患者さんの立場に立った物の見方を重視することです。もちろん、人間的で素晴らしい医師も多く、冷たく事務的なナース・ミドワイフも数多くいるのですが、一般的に言って、ナース・ミドワイフは時間を取って患者と健康パートナーとして向き合う姿勢があると思います。

こころと知識と技術、あなたもお産を取り上げるだけでなく、女性の健康のためにもっとできることがあるはずだ、と思いませんか?


注1. アメリカにおける 子宮ガン検診の異常の分類及び治療の方針についての見解については、アメリカコルポスコピー・子宮頸管病理学会決議を参照してください。http://www.asccp.org/consensus.shtml

注2.アメリカでは普通の産婦人科では中絶を行いません。極端な中絶反対運動がある中で女性の産まない権利を保障するために中絶を行うにはそれなりの勇気と信念が必要です。私のところでは中絶を扱いませんが、Planned Parenthoodという全米にあるクリニックで安全で人道的な中絶をしているので、そちらに紹介しています。http://www.plannedparenthood.org

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