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不妊症の相談・検査

(Fertility Concern: Initial evaluation, natural methods to increase fertility and when to go to the specialist)

 

  • なかなか妊娠しない場合に、相談にのります。

  • 自然な方法で妊娠しやすくなるよう、タイミングの指導をします。

  • 血液検査、超音波検査など、適切な検査をオーダーして、結果を説明します。

  • 手術が必要な異常や、検査値があまりよくなくて、早急にハイテクな治療にすすむ必要がある、という場合は、すみやかに専門医に紹介します。

  • 心理的にもつらいものですが、できるだけお二人の気持ちとご希望にそった検査、指導を心掛けています。

なかなか妊娠しないと感じたら

日本からいらしたご夫婦でなかなか妊娠しない場合に、どこにどのように相談したら良いのかためらっている方がいらっしゃると思います。こちらの不妊症の専門医にいきなり高額な体外受精を勧められるのではないか、ということが心配になるかもしれません。一般的にアメリカの医療は日本と比べて高額で、不妊治療についても費用だけを比べると2倍程度になるのではないかと思われます。考えすぎてためらっているよりも、気になりはじめたら一回相談にいらっしゃることをお勧めします。

 

検査は早めに

特に、妊娠を希望していて避妊をやめてから1年たっても妊娠しない場合、あるいは女性の年齢が35歳以上の場合は、1年待たずに6か月の時点で、検査をしてみることをお勧めします。妊娠が難しいときには、いろいろな原因が考えられますが、簡単なものから、治療法が特にない難しいものまで差があるので、検査をしてみると次の方針をたてることができます。

 

タイミング方から始めてみる

一番簡単なのは、女性側にも男性側にも何も異常がないのに、排卵のタイミングをうまく把握できないために妊娠できないことがあります。検査に踏み切る前にご自分でできることがいくつかありますので、そこから始めましょう。まずは、生理周期です。

 

生理の周期がきっちり28日周期になっている女性の場合は、排卵日を予測するのが簡単です。生理の開始日から数えて14日目前後に排卵が起こっているはずです。精子は、排卵が起こる前に卵管まで泳ぎ着いているのが理想的なので、生理開始日から数えて10日目ぐらいから一日置きに性行為を試みてみましょう。

 

生理の周期が28日より長くて、例えば、生理が32日ごとにくるという場合は、排卵が普通より4日ぐらい遅れているはずなので、生理開始の日から18日目(14+4=18) ぐらいを排卵日と予測してタイミングを調整してみましょう。

 

周期がバラバラの場合、タイミングを予測するのが難しくなります。特に、月によって出血量が多かったり少なかったり、生理痛がある時とまったく無い時がある場合には、無排卵の周期が混じっている場合があります。基礎体温を付けてみると、排卵のあった月は2層性のグラフになり、排卵の無かった月は体温の変化に規則性がないことがわかります。その場合、簡単な治療が必要になるかもしれないので、早めに受診してみましょう。

 

基礎体温の測り方

ここで基礎体温について説明しておきましょう。体温は、活動によって高くなり、休んでいると低くなります。一日のうちでも、夕方は高め、早朝は低めになるというリズムがあります。その変化のパターンの上に重ねるようにして、ホルモンの影響による体温の変化があります。時間によって温度の高低が変わるので、毎日同じ時間に目覚ましをかけて深部体温をはかります。口の中で測るのが一番正確です。測るのが1時間遅いと体温がその分高くなり、1時間早い低くなるために、測る時間がまちまちだと、ホルモンによる微妙なパターンが読みにくくなります。また、活動によって体温があがってしまうので、4時間以上熟睡したあと、つまり、活動による熱生産が無いタイミングで測らないといけません。目覚ましがなる前にトイレに立ったりすると、その活動の分だけ体温が上がってしまいます。

 

基礎体温用の体温計は熱がある時に使う体温計より目盛りが細かく、測れる温度の範囲も狭くなっています。最近はデジタルで、スマートフォンのプログラムと連携しているものが多いですが、デジタルのものでなくても基礎体温用と書いてあれば大丈夫です。  基礎体温を測るのには、根気がいります。最初の一か月だけで妊娠するという確立はかなり低いので、高温期になって妊娠したかと期待していると体温が下がって生理が始まり、がっかりするというサイクルを繰り返すことになったりします。とりあえず1~2か月測って自分のパターンを把握するのをお勧めしますが、長く続けるのはかえってストレスになって逆効果だと私は思います。

 

基礎体温を測ると排卵が有ったのか無かったのか、ということはわかるのですが、排卵予測には役にたちません。排卵がすでに起こってしまって、排卵後の卵巣に黄体ができて、そこから出てくる黄体ホルモンに身体が反応して体温があがるので、高温期になってしまってからの性行為は妊娠にはむすびつきません。

 

排卵が近くなると

排卵の前兆を知るためには、頸管粘液が一番役にたちます。子宮には赤ちゃんを育てる体部と、赤ちゃんが外へ出てしまわないように9カ月しっかり閉じている頸管部分があります。子宮の中に雑菌がはいるのを防ぐため、普段は頸管の通り道には栓の役目をする分泌物の塊が詰まっています。また、頸管自体も硬くて、つぼみのように閉じています。排卵の3~4日前になると頸管が柔らかくなり、入口が5mmほど開き、中に詰まっていた分泌物もトロっと流れるように出てきて、精子が自由に入れるようになります。この時の分泌物は、ちょうどオクラの粘液のような性状です。透明で、ヌルっとして、長く糸をひくように伸びます。こうした粘液は、排卵前に顕著にみられますが、排卵と同時に出なくなり、それと同時に頸管自体も、硬くなってしまいます。粘液が認められる期間に一日置きの性行為をすると、うまく精子が中にはいって、排卵を待ってくれることになります。

 

若い女性ではこうした粘液が月に3~4日見られるのが普通ですが、30歳をすぎたころから粘液が認められる日数が減ってくる場合があります。その場合には、排卵予測日の3日前ぐらいから、Robitussin DMという市販の風邪薬を飲むとトロっとした粘液が出ます。Robitussin DMというのは痰が詰まったときに飲む風邪薬で、痰をゆるくする効果があります。ついでに子宮の経管の粘液もゆるくしてくれるので、性行為の3~4時間前にこの薬を一回分だけ飲むと、精子の通りやすい粘液を準備することができます。

 

ホルモン検査で方向性を見つける

排卵が無い場合や、排卵はあるけれど一向に妊娠しない場合には、受診して血液検査をしてみましょう。生理の開始日から2日目ら4日目までに血液検査をすることができます。昔から3~4種類の検査をして、少し異常があるとか、これは体外受精に踏み切った方が良い、というような結果の説明をしてきましたが、なかなか理解しにくいものでした。最近使われるようになったのが、5種類のホルモンを測って年齢相当で卵子の数や質を点数で表すものです。体外受精を行った人のデータを使って、この点数だとこのくらいの成功率になる、というような研究を行った結果、妊娠の可能性をわかりやすく点数とグラフで表示してくれるものです。なでしこクリニックでもこのテストを開始したので、その結果によって、もう少し自分たちで頑張ってみるのが良いとか、これはさっそく不妊症専門医に行って治療をした方が良いというアドバイスができます。

 

不妊治療の選択

卵子の状況の検査が済んで、問題が無いのに妊娠が難しい場合には、卵管の通気検査をするのが普通です。排卵はあるのに、卵管が詰まっていて、精子と卵子が出会うことができないと妊娠できません。また、子宮の形の異常や、子宮筋腫やポリープなどで内膜の異常があって、卵子と精子は出会うことができるけれど、着床できない場合もあります。こうした検査は私がオーダーを書いて、放射線科か、不妊症のオフィスで行ってくれます。

 

男性の検査について

不妊検査で後回しになりがちなのが、男性側の不妊因子です。女性は年齢にって確実に条件が悪くなってくるので検査や治療に積極的な人が多いのですが、男性は比較的のんきで女性の気持ちとすれ違う場合が良くあります。また、「仕事が忙しくて週日の昼間に検査に行くのが難しい」という事情もあるかもしれませんし、「子供を作るのは自然な営みで、検査室に行って不自然な環境で精液採取をするのは心理的に受け入れられない」という思いも理解できます。不妊症の原因としては、女性側の原因がおよそ1/3、男性側の原因がおよそ1/3、原因不明、あるいは両者の組み合わせによる原因が残りの1/3と言われています。こうした事情に対応するために、自宅で精液採取ができる検査があります。なでしこクリニックでも7月半ばぐらいから取り扱うことができますので、女性の検査だけでなくパートナーの男性の検査も私のところで扱うことができるようになります。男性側の異常がわかった場合には、感染症、勃起異常などは、男性の泌尿器科に受診していただきます。無精子症や、精子の奇形が多いなど、泌尿器科での治療に向かない結果でしたら、顕微授精など高度不妊治療に行っていただくことになります。

 

不妊治療の計画

不妊治療の専門医に行っていただくことになった場合も、どのような流れが予想されるのか、どんな心構えをしていったら良いのかなどお話します。治療の途中で理解できないことが起こったり、心がめげそうになったら、お話を聞いたり、次のステップの相談に乗ったりします。不妊治療は賭けのようなものです。お金をかけたから必ず成功するかというとそうでもなく、どんなに科学や技術がすすんでも、所詮は授かりものなのかな、と思うことも多いです。ひとりめは体外受精を繰り返してやっとできたのに、ふたりめは産後の生理が開始する前に気がついたら妊娠していた、という場合もあります。次は妊娠するかもしれない、もう一回やれば妊娠するかもしれない、と果てしなく治療に時間とお金をかけることになってしまう可能性もあります。治療に取り掛かる前に、予算と時間を良く考えて、どこでやめるか、という計画をしておくのも大切です。

 

*ライトハウス2019年7月号に簡略化した内容が掲載されます。

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